広島メープル法律事務所 広島メープル法律事務所

           電話受付時間【平日】8:30〜18:00 082-223-4478

お知らせ

弁護士ブログ「コロナで家賃は下がるのか―コロナウイルスによる店舗営業自粛と家賃、給料の支払いについて」根石英行

2020.04.24

コロナウイルスの緊急事態宣言で、業種によっては営業自粛を要請され、売上が減って店舗の家賃も払えないという悲鳴が上がっています。
コロナウイルスの蔓延は不可抗力であり、それでも家賃を払わなければならないのでしょうか。
結論から言えば払わなければなりません。
売り上げが無くても店舗を使っている(占有している)以上、家賃は発生しているのです。地震で壊れて店舗が使えない場合は、家賃は発生しませんが、コロナウイルスで営業ができなくても、店舗が使えている以上は家賃が発生するのです。
地震で店舗の一部が壊れて使えなくなった場合は、家賃の減額を請求できます(民法611条)。
では、売り上げが減ったからという理由で家賃を下げて、と言えるのでしょうか。
借地借家法には借賃の(増)減額請求権がありますが(借地借家法32条)、これは地価が下落したり、近所の家賃相場が下がったり、経済事情が変化したりした場合に将来に向けて賃料の変更を請求するもので、現時点での売り上げの減少や借主の事情を直ちに反映させるものではありません。
今後コロナウイルスの影響で景気が悪化し、地価等の下落が続くというような厳しい事態となれば家賃の減額請求もあり得るでしょうが、この数か月の短いスパンでの減額請求は難しいでしょう。
となると家賃を負けてほしいというのは大家さんとの交渉ということになり、お願いベースの問題と言わざるを得ず、大家さんからすると、当然には減額に応じる必要はない、ということになります。
借り主からすると、公的な家賃保証や援助が喫緊の課題であると言えます。テナントの賃料支援について与野党の協議が進んでいるとのことですが(『賃料支援で与野党 協議へ早期実施は一致、具体策に違い新型コロナ』(時事通信4/23/7:04配信・ https://www.jiji.com/jc/article?k=2020042201074&g=pol)、早期の対応を期待したいところです。
お店の営業が自粛となれば、従業員にも休んでもらわなければ、という事態にもつながりかねません。休業手当が問題です。
従業員を雇用主の責任で休ませた場合は、休業手当として平均賃金の6割を払わなければなりません(労働基準法26条)。
就業規則等でそれ以上の補償をすると定めている場合はそれに従った支払いが必要です。ですが、コロナウイルスにせよ営業自粛にせよ、雇用主の責任と言えるのでしょうか。
雇用主に責任がない休業なら、休業手当は不要です。雇用主の責任をどう考えるのかが問題ですが、災害や戦争、社会混乱などの不可抗力は雇用主の責任とはされていません。
さらに行政の勧告での操業停止も雇用主の責任ではないとされています。
しかし、今回の緊急事態宣言は都道府県知事の要請による自粛という建前なので、雇用主の自主的判断なら、雇用主の責任と解する余地があります。
この点に関し、厚生労働省のQAによると、

https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/dengue_fever_qa_00007.html
今回の新型インフルエンザ等対策特別措置法に基づく緊急事態宣言や要請などのように、事業の外部において発生した事業運営を困難にする要因は、雇用主の責任が認められない要件の一つである、とされています。
ただ雇用主の責任が認められない休業であるためには、もう一つ要件があるとされ、従業員の休業を回避するための具体的努力を最大限尽くしていると言える必要があり、例えば、 ①自宅勤務などの方法により労働者を業務に従事させることが可能な場合においてこれを十分に検討しているか②労働者に他に就かせることができる業務があるにもかかわらず休業させていないか、といった事情から判断されるとしています。
飲食店の店舗スタッフや販売員で、自宅勤務やテレワークでの仕事自体が不可能で、店舗以外でやるべき仕事もないという場合なら、やむを得ず休業手当を支給しないことはあり得るでしょう。
但し、国は、休業手当支払いの要否にかかわらず、手当てを支給した場合については、雇用調整助成金による援助制度(中小企業の場合は支給額の90%,10%のみが雇用主負担)を設けていますし、無給での休業では、退職されても仕方がなく、潜在的には人手不足ですから、従業員の維持の観点も重要です。
どうせ休ませるくらいなら解雇する、ということが可能かについては、解雇が有効となるためには、社会通念上相当であるといえなければならず、事業主には、解雇回避に向けた努力が必要とされていますし、解雇には解雇予告(1か月前の予告か予告手当)が必要とされていますので、注意が必要です。休業手当より失業給付の方が労働者に有利だからという理由で従業員を解雇したタクシー会社のことが報道されていますが、解雇の前に会社として休業手当を払って(国の助成等を利用しても)雇用を維持することができなかったのか、その努力の可否が問題となり、解雇の効力については争われる余地があるでしょう。
なお、コロナウイルスに感染して従業員が休業した場合は、基本的には私病による休みとして賃金を払う必要はありませんが、3日以上の休業には健康保険から傷病手当金が支払われます。
このまま自粛が続きお金の流れが止まってしまうと、大変な事態に陥ります。公的な支援の拡充が待たれるところですが、どういう支援があるのか等の情報の収集も重要です。
一日も早く通常の生活に戻れることが心から望まれます。