前回触れました、以下の5つの最高裁判決を踏まえて、まずは、基本給・賞与以外の各種手当をみてみましょう。
①ハマキョウレックス事件(最判平成30年6月1日・民集第72巻2号88頁)
②長澤運輸事件(最判平成30年6月1日・民集第72巻2号202頁)
③大阪医科大学事件(最判令和2年10月13日※民集等への登載は未定?)
④メトロコマース事件(最判令和2年10月13日・民集第74巻7号1901頁)
⑤日本郵便事件(最判令和2年10月15日※民集等への登載は未定?)
会社によって賃金を構成する手当は各種色々あると思いますが、以下のようなものが多いのではないでしょうか。
(1)通勤手当
(2)給食手当・食事手当
(3)皆勤手当・皆勤手当
(4)無事故手当
(5)住居手当
(6)家族手当・扶養手当
etc.
以上のようなものは、その名称自体でその手当の趣旨が分かりやすく明確だと思われますが、実際には、その手当の名称と、その目的や趣旨がリンクしない、あるいは趣旨不明のケースが結構多いように思われます。
そうした場合、正社員と有期社員とで手当の差異があると、その待遇差について不合理と判断されるおそれが高くなると思われますので、使用者側としては、まずは自分のところで出している各種手当についてよく整理してみられることをお勧めします。
さて、上記(1)~(6)のうち、(1)の通勤手当や(2)の給食手当は、通常、社員の通勤費用や就業時の食事支出をカバーするために支給されるものでしょうから、社員である限り、雇用期間の定めの有無には関係があるとはいえないでしょうし、職務内容や人事異動の範囲等とも直接は関連しないもの、といえます。
また、(3)の皆勤手当・精勤手当は、通常、社員の皆勤や精勤を奨励する趣旨で支給されるものでしょうから、これも正社員に限らず、有期社員にも妥当するといえます。
(4)の無事故手当は、職務内容に関わる手当ですが、その趣旨は社員自身に事故防止の意識や動機付けを高めて、優良な社員を育成し事故を防止しようというものでしょうし、有為な人材を確保するという意味でも差を設ける意味がありませんから、これも正社員か有期社員かで区別する理由はなさそうです。
正社員運転手と契約社員運転手の間の待遇の相違が問題になった①の最判(最高裁で破棄差戻し後の高裁判決を含む)では、争点となった(1)~(4)の4つの手当については、正社員運転手に支給して、契約社員運転手に支給しないのは不合理だとされましたし、定年後再雇用された嘱託社員運転手と正社員運転手の間の待遇の差異が問題となった②の最判でも、争点となった精勤手当の支給について差異があるのは不合理だと判断されました。
この(1)~(4)については、それぞれの会社の事情やそうした手当の支給の趣旨・目的にもよるとはいえ、実際にはその差異が不合理とはいえない事情があるというのは考えにくいでしょうから、これらについては正社員と有期社員とで差異を設けないのが無難だと思われます。
そうした観点から、最近、これらの手当に関わる就業規則を改正する法人・団体が多いようです。
では、次回は(5)の住居手当や(6)の家族手当を見てみましょう。