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弁護士ブログ「法制審議会刑事法(マネー・ローンダリング罪の法定刑関係)部会②」中井克洋

2022.04.11

法制審議会刑事法(マネー・ローンダリング罪の法定刑関係)部会① 中井克洋 | 広島メープル法律事務所 (maple-lawoffice.com)

日弁連民暴委員の立場からの私の発言内容

 私たち被害者の立場にたつ弁護士からすれば、加害者がいかに厳しく罰せられて犯罪が予防できるか、も大切ですが、それと同様もしくはそれ以上に犯罪被害にあった人の被害を回復することも重要です。

 しかし、犯人たちから被害にあったお金を没収してそれを被害者に返す、という観点では、我が国の刑事処分や刑事政策はこれまでそれほど積極的ではなかったように思われます。

 この点、その問題意識から、日弁連では民暴委員会が中心となって、2014年10月4日に青森で開催された第61回人権擁護大会シンポジウムにおいても、問題意識スイスの視察などもふまえて、いかにマネロン対策を充実させて、特殊詐欺を典型とする組織的犯罪による被害防止と被害回復に力を注ぐべきかという研究結果を発表しました。

https://www.nichibenren.or.jp/library/ja/jfba_info/organization/data/61th_keynote_report2_1.pdf

 また、その研究結果をふまえて、同月5日の日弁連人権擁護大会において、日弁連として「特殊詐欺を典型とする社会的弱者等を標的にした組織的犯罪に係る被害の防止及び回復並びに被害者支援の推進を目指す決議」を採択し、そのなかで「国及び地方自治体は、特殊詐欺の被害防止と被害回復を実現するため、特殊詐欺の被害の甚大さに見合った十分な予算及び人員を投入し、特殊詐欺に係る捜査体制を拡充し、適正な捜査手続に基づき、可能な限りの捜査・取締りを推進すること」を求めています。

 確かに組織犯罪集団をいかに撲滅していくか、という観点からも、前提犯罪の摘発や厳しい科刑に力を注ぐことももちろん重要ですが、それと同時に前提犯罪の事後行為のマネロン行為を積極的に摘発し、厳罰を加えることが有効ではないか、と思われます。

 太平洋戦争において、米軍は、前線での軍艦(空母、戦艦)を沈めることと同様あるいはそれ以上に輸送船団を狙って兵站(補給)を断つことをかなり重視していたのに対して、日本軍では、兵站(補給)を断つことよりも空母や戦艦を撃沈することのほうが重んじられたという話をきいたことがあります。レイテ海戦において栗田艦隊は上陸中の米軍輸送船団を攻撃するという目的で出動し、それができそうなところまで行ったのに謎の反転をした理由もその意識からではないか、とのみかたもあるようです。

 兵站(補給)を断つことが戦争継続能力を減殺することにとても有効であるわけですが、軍艦を「前提犯罪」、輸送船団を「マネロン行為」とみれば、組織犯罪の兵站(補給)をたつという観点からみても、マネロン行為を積極的に摘発するほうが、長い目でみれば「前提犯罪」の摘発以上に組織犯罪対策として有効であることは同じと思います。

 また、組織犯罪集団の行う薬物犯罪、特殊詐欺は、単発の犯罪ではなく、次の犯罪を引き起こし、さらに新たな被害者を生み出しますので、事後行為であるマネロン行為を軽視すべきではありません。

 むしろ、組織犯罪集団は前提犯罪で得られた収益を使って贅沢をするためにその犯罪サイクルを構築するのですから、収益を使えるようにするためのマネロン行為こそが彼らの目的であって、前提犯罪は詐欺でも窃盗でも薬物犯罪でもなんでもよく、ただの手段といっても過言ではありません。

 

 法制審議会の部会でも、私は日頃、組織犯罪の被害防止や被害回復のための仕事に関わる民暴委員としての自他の経験や知見から、今回のマネロン罪の法定刑引上げに賛成であるとの立場にたち、意見を述べさせていただきました。

 詳しくは冒頭のHPの第1回部会の議事録を読んでいただければと思いますが、要点だけまとめると以下の内容です。

・マネロン行為は非常に手口が巧妙化している

・そのため、被害回復をめざす我々弁護士の立場からしても、直接とられたお金を取り返すことができず、そこに暴力団員が絡んでいれば、その暴力団の組長に対する使用者責任を追及するという、言ってみれば直接のお金の取り返しではない形で被害回復をしている

・マネロン自体を巧妙化させて、その資金を使って次の前提犯罪の道具、例えば電話システムとか名簿とか通帳とか、受け子、出し子の手配とか、私設私書箱の手配とかをして前提犯罪が行われて、更に進化したマネロン手段が準備されて、それをどんどんうまく進化させてきたところ、ノウハウを積んできたところがどんどん寡占化している

・我々からみると、むしろお金を取って、それを何とか使えるようにすることが目的であって、前提犯罪はむしろ従たるものというぐらいのただの手段にすぎない

・そうだとすると、マネロン行為は前提犯罪と同等か若しくはそれ以上に罰せられるべき犯罪であり、当然、法定刑引上げについての必要性がある

・また、法定刑を引き上げることが捜査のインセンティブになる、ということを期待する

・日弁連も、上記の2018年10月の青森人権擁護大会で、決議を採択して、特殊詐欺について、国や自治体に対して、捜査体制を拡充や可能な限りの捜査・取締りを推進することを求めており、法定刑の引き上げがその決議の方向への追い風になって、被害回復の道筋ができることを期待する

・マネロン行為にはいわゆるカタギ(普通の人)が関わることが多いと思われるが、法定刑が引き上げられて、その結果、マネロン行為に関わっても厳しい罰則が下されるということが啓発されていけば、普通の人がマネロン行為に関わることが少なくなり、ヒト・モノ・カネの三つの中の「ヒト」の確保について組織犯罪集団に対して打撃となることを期待する

・マネロン罪の法定刑が改正案のようになると、公訴時効期間が7年とか5年に伸びることによって、長期にわたって捜査ができ、その結果、没収や追徴の実績が上がって、被害回復の成果が上がることを期待する

以上