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弁護士ブログ「相続で後悔しない~その3:相続の基本ルール③・寄与分」甲斐野正行

2023.04.10

前回に続き、相続の基本ルールで、今回は遺産分割の際の修正要素です。
プラスの財産について遺産分割するに当たっては、全員の合意があれば法定相続分と異なる割合でも可能ですが、それができないなら原則として法定相続分に従って具体的な遺産を分けていくことになります。

しかし、時として、法定相続分どおりでは不公平ではないか、という場合があり、その修正要素として、民法は、寄与分と特別受益という制度を設けています。
今回は、そのうち寄与分です。

1 寄与分とは、特定の相続人が遺産の維持、増加に特別な寄与(貢献)をしたときに、その相続人に対して、本来、承継するべき相続分とは別に、被相続人の遺産の中から、その貢献度を考慮した相当額の財産の取得を認めて、相続人間の実質的公平をはかる制度です。

① 「特別」とは?
夫婦や親子は、互いに扶養義務(民法752条、877条)があるので、被相続人と相続人の身分関係に基づいて互いに一定の貢献があることは当然です。
したがって、この「特別」とは、その身分関係に基づいて通常期待される程度を越える貢献ということです。
ただし、相続人に通常期待される貢献には、相続人による立場の違いも考慮されます。
配偶者と子では、扶養義務といっても差があるので、配偶者と子が同じ程度の寄与をしたとしても、特別の寄与と認められるかどうかに違いが生じることもあります。

② 「寄与」とはどんな行為?
おおよそ以下のようなパターンに当たる行為で、それにより被相続人の財産の減少を防いだり、財産を増やすことができたということが必要になります。
ただ、現実には、日々の寄与行為は後で寄与分として認められるつもりでしているわけではないことが通常でしょう。そのため、証拠が残っているケースは多くなく、ハードルが高いといえます。

ⅰ 家事従事に関する行為
長年にわたって、相続人が被相続人の事業に従事してきた場合など。
ただし、一時的に手伝ったとか、被相続人が経営する会社にサラリーマンとして従事し、その労働の対価である給料を得ていた等は該当しないと考えられます。

ⅱ 療養看護に関する行為
常時の付添を必要とするような負担の大きい被相続人の看護に、相続人が長期間あたることで、その分の看護費用の支払を免れるなど、被相続人の財産維持に貢献した場合などが考えられます。在宅介護でヘルパーを利用していたとしても、その費用を相続人自身が支出していたときには、特別の寄与と評価できる場合があります。その意味ではⅲと重なる面があります。

ⅲ 金銭(財産)等の負担に関する行為
相続人が、被相続人の事業のために資金や不動産を提供して、その事業による財産形成・維持に貢献したり、借金返済のために金銭的援助をしたりするなどした場合をいいます。
また、相続人が被相続人の入院費や治療費等を負担するなどして、被相続人の財産維持や増加に貢献した場合などもこれに当たると考えられます。

ⅳ 扶養に関する行為
被相続人が病気等で看護が必要な場合でなくても、相続人が被相続人を自宅に引き取って長期間にわたって面倒を看る場合や、被相続人に対して生活費を援助する場合などが考えられます。ただし、親子・夫婦間には前記のとおり互いに扶養義務がありますし、特に看護が必要な場合でもないとすると、これが寄与に当たるのは、よくよくのケースでしょう。

ⅴ 財産管理に関する行為
被相続人が不動産賃貸業をしているときに、相続人がその賃料管理や、賃借人とのとの立退交渉などに尽力したり、修繕費用の負担などをしたような場合が当たると思われますが、これも既に対価を得ているなどしたときには寄与とは認められないと思われます。

2 相続人ではないのに、特別な寄与をした場合は?
① 「特別の寄与の制度」
1でみた寄与分は、「相続人」であることを前提として、その相続できる分を割り増しするというものです。
つまり、相続人でない者が、被相続人の介護等に尽くしても相続財産を取得できる権利を保障するものではありません。
例えば、長男の妻が,長男死亡後も被相続人と同居して介護を尽くしていても、長男の妻自身は被相続人と養子縁組でもしていない限り相続権がありません。
他方、相続人である長女・次男は、被相続人の介護を全くしていなかったとしても、法律上当然に相続財産を取得することができますので、これは不公平です。

そこで2018年改正民法は、このような不公平を解消するために、相続人以外の被相続人の親族が無償で被相続人の療養看護をしたり、被相続人の財産の維持・増加について特別の寄与をした等の場合には、相続人に対して金銭の請求をすることができる(改正民法1050条)こととしました。

ここに親族とは、被相続人の6親等内の血族、3親等内の姻族をいい、子の配偶者(上記の例の長男の妻)はこれに含まれます。
また、1の寄与分と異なり、寄与行為としては、「療養看護その他の労務を提供」した場合に限られ、金銭等の負担支出は特別寄与として認められません。
そして、遺産分割の手続が過度に複雑にならないように、遺産分割は、改正前と同様、相続人だけで行うこととしつつ、相続人に対して特別寄与としての金銭請求をすることを認めました。
また、期間制限のない1の寄与分と異なり、特別の寄与の制度は、相続の開始及び相続人を知った時から6ヶ月、または相続開始の時から1年という期間制限がありますから注意を要します。

さらに、証拠のハードルが高いことは1の寄与分と変わりませんので、ここはネックですね。

② 寄与をした人が親族以外の場合は?
①の特別の寄与の制度は、相続人ではない親族の寄与を保護するものであり、親族ですらない者には適用がありません。
そうすると、親族以外の人が特別な貢献をしてくれたときには、遺言や生命保険で報いてあげるしかないことになります。