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弁護士ブログ「僧衣での運転は道交法違反?」甲斐野正行

2019.01.10

昨年末の福井新聞に、「福井県内の40歳代の男性僧侶が9月、僧衣を着て車を運転したこと理由に、県警に交通反則切符(青切符)を切られていたことがわかった。県の規則が「運転操作に支障がある衣服」での運転を禁じているためだが、僧侶の多くは日常的に僧衣で運転しており、男性は「法事に行けない」と反則金の支払いを拒否。所属する宗派も反発する異例の事態になっている。」という記事があり、この話が、年末年始、テレビでもとりあげられていました。

福井新聞によると、昨年916日午前10時過ぎ、福井市内の県道で、男性僧侶が軽乗用車を運転していたところ、取締り中の警察官に制止され、警察官は「その着物はだめです」と告げ、青切符を交付。違反内容は「運転に支障のある和服での運転」と記され、反則金6,000円を納付するよう求められた。男性僧侶は法事に行く途中で、裾がひざ下までの僧衣を着ており、20年前から僧衣で運転しているが、摘発は初めてで、男性僧侶に適用されたのは、福井県道路交通法施行細則にある「運転操作に支障を及ぼすおそれのある衣服を着用して車両を運転しないこと」との規定で、現場の警察官は、男性が来ていた僧衣の袖や裾が運転に支障があると判断したとみられるが、福井県警交通指導課は「僧衣が全て違反ではなく、状況による」と説明しているということです。

 

ちなみに道交法7116号は、車輌等の運転者の遵守事項として、「前各号に掲げるもののほか、道路又は交通の状況により、公安委員会が道路における危険を防止し、その他交通の安全を図るため必要と認めて定めた事項」と定めており、各都道府県の公安委員会が交通安全のための規制事項を定めることができるようになっています。

ただ、逆にいうと、各都道府県の道交法施行規則や細則による禁止事項は区々になり得るわけで、改めて調べてみると、福井県では、福井県道交法施行細則163号で「下駄、スリッパその他運転操作に支障を及ぼすおそれのある履物または衣服を着用して車両(足踏自転車を除く。)を運転しないこと。」と定めており、他にも茨城県道交法施行細則135号、愛知県道交法施行細則73号、滋賀県道交法施行細則142項などが同様の規定を設けています。

他方、同じ北陸でも、石川県、富山県の各道交法施行細則では、「げた、スリッパ、つっかけその他運転に支障のあるものをはいて、自動車又は原動機付自転車を運転しないこと。」などとして、履き物については規制していますが、衣服についての規制はしていないようです。東京都、千葉県、埼玉県、神奈川県、京都府、大阪府、兵庫県、広島県、福岡県などの道交法施行規則又は細則でもやはり履き物については規制しているのですが、衣服についての規制はしていないようです(見落としや改正による漏れがあったらゴメンナサイ)。

 

こうしてみると、衣服については規制をしていないのが多数派かもしれませんが、想像するに、これはどんな衣服が運転に支障を来すのかを文言として明確にしにくいからではないか、と思われます。

履き物についても同様の問題があるのですが、それでも、上記のように、履き物の規制には、下駄、スリッパ、つっかけなどという例示がしてあって、要はこれらに類する脱げやすい履き物という限定であれば、何が規制を受け処罰を受けるのかが一般人にもまだ想像がつくので、ギリOKかな?(NGもあり得る)というところがあります。

しかし、衣服については、福井県を含めて規制派の道交法施行細則では、まったく何の例示もされておらず、どんな衣服が運転に支障があるものとして規制を受け処罰を受けるのかが分かりません。現場の警察官は、僧衣の袖や裾に着目したのかもしれませんが、そうすると、和服は全部引っかかりそうですし、洋服でも、袖が膨らんだ上着はどうなのかや、更に女性のスカートは一般的に和服の裾とどう違うのか、コートを羽織っているときはどうなのか、という疑問が次々に生じてきます。

 

刑罰規定は、予め何をすれば処罰されるのかが明確になるように定めることが憲法上の要請(憲法31条、罪刑法定主義)であり、衣服についての規制文言は、これに違反しているのではないか?というより、もうアウトのような気がします。都道府県レベルでの立法は、とかく粗雑になりがちで、よく見ると結構アウトなものがあるのですが、衣服について規制をしていない都道府県は、道交法施行規則や細則を作るに当たって、憲法上のリスクをちゃんと検討したものと思われ、賢明な判断であるように思います。

 

男性僧侶は「安全運転を心掛けている。どこが危険か明らかにしてほしい」と反発して、反則金を払わず、反則金納付にも応じていないそうで、裁判で主張したいという意向だそうです。

このところ、刺青事件での医療法の「医行為」の解釈について、厳格に解する大阪高裁の判決や、あおり運転についての判決など、刑罰規定の文言や、司法の法律解釈について国民一般の理解や認識との乖離が問題になる判決が続いていますが、この事件は、かなり警察側に不利な感じですし、他県の同様の規制を設けている道交法施行規則や細則にも波及することになりますので、注目です。