市川海老蔵さんは、急性咽頭炎のため歌舞伎座『七月大歌舞伎』を今月15日夜から休演していましたが、復帰予定だった今日18日の公演についても休演することが発表されました。
そして、単に海老蔵さん自身の休演にとどまらず、夜の部の通し狂言「星合世十三團」(ほしあわせじゅうさんだん)も上演中止となっています。
今回の「星合世十三團」は、通常は長くて全部は演じない「義経千本桜」を全幕通しで概観するという珍しい趣向で、しかも、主役の海老蔵さんが13役の早替わりに挑戦するということで、代演をする役者がいなかったということのようです。
そういうと、それはそうかなと納得しそうですが、しかし、これは、例えば宝塚歌劇ではあり得ません。
宝塚では、演目は常に新しい芝居やショーですし、その組のトップスターを含めて常に誰かの休演に備えてもう一人本役に準ずる立場の別の生徒(例えばトップに対しては通常は2番手、たまに3番手に振ることもあるようです)が自分の本役だけでなく、代役の準備もしています。しかも、更に宝塚特有のシステムですが、本公演の中日に、新人公演といって、若手有望株による1日限りの公演があり、そのために若手有望株が本役を演ずる準備をしていますので、少なくとも2人は代役がいるような具合になります。
仮にトップさんが急病等で休演したとしても、その場合は予め代役を振られていたスターがトップの代役をするのが通常であり(それをできないと言った人もタカラヅカ史上ないわけではないようですが、そのときは別の生徒さんがなんとかした(汗))、まず演目の上演中止などあり得ません。
歌舞伎であっても、通常の演目なら、歌舞伎役者の皆さんは、小さい頃からなにがしかの経験や知識があるため、少しの稽古やプロンプターを付けることで代役は十分でき、演目の上演中止に至ることはないはずです。現に、今回も昼の部の『素襖落』(すおうおとし)は市川右團次さんが代演し、『外郎売』(ういろううり)は一部演出を変更して上演しています。
そうしてみると、仮に、今回の演目が従前にはないような趣向であったとしても、だからこそ代役の準備をしておくのが興行の危機管理というものではないか、という気がします。
松竹は、来年の團十郎襲名という大イベントに向けてかなり力を入れています。個人的には、オリンピックにぶつけなくても十分大きな盛り上がりが予想される興行ですし(かえって、オリンピックにより印象が小さくなりはしないかとも危惧します)、失礼ながら、現状の海老蔵さんの力からすると、もう少し時間をあげても、という気がします。
ちょっと無理押しな上げ上げのために、今年の海老蔵さんにはかなり精神的肉体的負担がかかっているように見え、このような事態を危惧していた向きもあるようです。
今回の演目については、海老蔵さん自身の意向もあるようで、ご自身の体調管理も含めて反省すべき点はあろうかと思いますが、興行主たる松竹が、第一次的には興行上の危機管理責任を負うべきであり、今回は抜かったな、という気がします。
しかし、ふりかえってみると、私たち法曹の仕事も、代替がききにくい業務であり、一つ何かあると、依頼者を含めて多大な迷惑をおかけすることになります。
そういうこともあって、当事務所では、できるだけ複数の弁護士で一つの事件を担当するようにしていますが、いずれにしても健康第一と自戒しているところです。