平成28年の電通過労死事件や、今年になって裁量労働制との関係で問題となった野村不動産過労死事件(労基署の労災認定は昨年12月)など、過労死や長時間労働に関するニュースが後を絶ちません。
こうしたなか、政府は、昨年3月に時間外労働の罰則付き上限規制を盛り込んだ「働き方改革実行計画」を発表し、時間外労働の上限を原則月45時間、労使が合意した場合は月平均60時間(繁忙期は月100時間未満)とし、上限を超えた場合は罰則が科すという時間外労働規制を目玉の一つとする労働関係法制の改正を進めようとしています。ただし、この改正作業では、各種業界から消極的な声が強く、一部の業態に関しては、改正法が施行されても、一定期間、この時間外労働規制の適用が先延ばしにされることになっています。人手が足りない建設業、運輸業がそうですが、お医者さんもその一つです。
医師に関しては、規制の在り方や労働時間を短縮する方策について検討し結論を得て、改正法の施行の2年後をめどに適用することとされ、現在、厚労省の「医師の働き方改革に関する検討会」で検討がされています。
なぜ、お医者さんが?というと、医師の数自体が多くはないということ以上に、その勤務の厳しさ・特殊性という問題があるからです。
お医者さんは、特に勤務医の場合、昼夜・時間帯を問わず、診療を求められる仕事であり、極めて長時間の労働というだけでなく、患者の生命健康を扱うことから緊張度も極めて高く、そのストレスは他職種と比較しても抜きん出たものがあると思われます。
「患者のために」という理念のもとに、お医者さん個々の献身的な医療が行われてきた結果であり、それは尊いことですが、お医者さんも、医師である前に、1人の人間であり、人間である以上、健康を維持することが労働の前提になります。
長時間・高ストレスの労働によってお医者さんが過労死したり、健康を害したりするケースが現に多数起きており、それでは結局医療の質や安全を維持できなくなります。また、医師の世界も女性の割合が増えていますが、出産育児という面から、女性医師の働きやすさを確保することも大事です。
そこで、医師の働き方改革が検討されているわけですが、その場合、難しい問題をはらむのが医師の応召義務というやつで、「医師の働き方改革に関する検討会」でも検討課題の一つとして挙げられています。
医師法19条1項は、「診療に従事する医師は、診察治療の求があった場合には、正当な事由がなければ、これを拒んではならない。」と定めており、これが医師の応召義務と呼ばれるもので、医師が国家資格として医療業務を独占していることの代償と、医療の公共性に基づくものといわれます。
しかし、この正当事由とは何か?どんな場合か?が問題であり、医師の働き方以前に、個別の患者との関係で医師や医療機関を悩ませている問題です。
次回パート2では、この点をもう少し