前回は、民法770条1項が離婚事由としてストレートに規定していない動機でも、同項⑤号に該当する可能性があるところまでお話ししました。
今回は、まず「暴力」についてみてみましょう。
暴力は、夫婦間でも犯罪になり得る行為であり、いけないことではあるのですが、一般的な夫婦げんかでは、平手打ちや物を投げたるということはありがちですし、必ずしも暴力も一方的なものではなく、互いに暴力をふるい合うこともよくあります。
すると、こうした一般的な夫婦げんかの範疇におさまる程度の暴力の場合は、直ちに婚姻関係を継続するのが難しいというには躊躇せざるを得ません。夫婦げんかは犬も食わないという昔のことわざも一概に否定できないものがあるところです。
しかし、夫婦の一方(多くは妻)が、他方(多くは夫)から、一方的に暴力をふるわれていて、その程度が強度で、頻度も多いということになると、そうも言っていられないケースも出てきます。
夫婦間で一方的な暴力が行われる場合は、最早両性の平等な立場を前提とした婚姻関係とは言いにくいですし、それでも同居義務を前提とする婚姻の継続を法が強いることは暴力を容認放置するに等しいとすらいえます。
DVに社会的な関心が寄せられ、暴力をふるわれる側の配偶者の身体生命を守るために、DV法等の法制度が整備され、社会的に認知されてきたことを踏まえると、「暴力」は、それが認定できるなら、⑤号の婚姻関係を継続するのが難しい重大な事由として、離婚を認めることが社会的に是認されるようになってきたといえ、これを認める裁判例も既に多く出ています。
問題は、その暴力の有無や程度をどのように証拠として残し、裁判所に認定してもらうか、というところにあるでしょう。
DVは夫婦だけの場面で行われることが多いので、なかなか証拠を残すことは難しいのですが、日常的に頻繁に暴力があるということなら、あらかじめ準備して配偶者が暴力をふるう様子を撮影したり録音したりすることが考えられます。
また、配偶者から暴力を受けたという自分の供述しか直接的な証拠がないこともあるのですが、だからといって諦めてはいけません。
あなたの供述もちゃんとした証拠であり、その信用性が高ければ、裁判でも勝つことは可能です。
信用性を高く評価されるには、そのエピソードができるだけ具体的で迫真的であることが望ましいですし、あなたのその時々の話す内容や様子をあなた以外の人に証言して貰うことも重要です。あなたの供述の信用性を高める証拠を集める努力と工夫をしましょう。
例えば、暴力をふるわれたときは、その都度暴力を受けた部位の写真、動画を撮影するとともに、お医者さんに診て貰って、怪我をした理由や経緯、状況を恥ずかしがらずに正直に話して、それを医療記録に残して貰いましょう。また、警察や弁護士にも相談に行って、その経緯や状況を正直に話したり、保護シェルターに避難したり、DV法の保護命令などの手続をとることも考えるべきです。こうした公的な相談に行ったり、公的な手続をとること自体があなたの被害の切迫性・重大性を裏付けます。
さらに、自分のメモや日記にも、暴力を受けた都度、その具体的な日時、場所、暴行の様子等をつけるようにし、家族や知人などにも相談をして、その状況を具体的に説明しておきましょう。
なお、これらは、記憶の点でも、暴力の痕跡の明確さの点でも、暴力行為からできるだけ近い時点で残すことが望ましいので、暴力を受けたときは、時間をおかずにすぐに撮影したり、病院に行ったり、記録に残したり、警察、弁護士や周囲の人に相談したりしましょう。
また、配偶者が直接あなたに暴力をふるう場面でなくても、暴れたり、暴言を吐いたりという粗暴な様子があれば、可能ならそれを録音、録画しておきましょう。配偶者の粗暴性を裏付けることができ、あなたへの暴力の間接的な証拠になり得ます。
こうした証拠が積み重なることで、配偶者から暴力を受けたというあなたの供述の信用性を裁判所に高く評価してもらうことが期待できます。