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弁護士ブログ「改正相続法施行③-遺留分の見直し」甲斐野正行

2019.06.26

前回・前々回のブログで触れましたように、2018年(平成30年)7月に,相続法制の見直しを内容とする「民法及び家事事件手続法の一部を改正する法律」と,法務局において遺言書を保管するサービスを行うこと等を内容とする「法務局における遺言書の保管等に関する法律」が成立しました。

 

今年7月1日から改正法のうち重要なものが施行され、その3つ目が今回取り上げる、「遺留分の見直し」です。

 

遺留分とは,兄弟姉妹以外の相続人について,その生活保障を図るなどの観点から,最低限の取り分を確保する制度です。

 

例えば、横溝正史の「犬神家の一族」では、犬神佐兵衛が、

「ひとつ、犬神家の相続権、三種の家宝「よき(斧)・こと(琴)・きく(菊)」は次の条件のもと野々宮珠代(佐兵衛の恩人の野々宮大弐の孫娘)に譲るものとする。但し珠代はその配偶者を佐清、佐武、佐智(いずれも佐兵衛の孫)の中から選ぶ事。もし珠代が結婚せず他の配偶者を選ぶときは相続権を失う。」

という遺言をしたことが連続惨劇の引き金になった訳ですが、これでは佐兵衛の法定相続人である3人の娘は何も相続できず、条件はあるとはいえ、血のつながりのない(実は・・・)珠代が総取りすることになってしまいます。それはまあ怒るわね、というところです。

 

亡くなった人の意思を尊重するため、遺言の内容は優先されるべきものですが、相続人は被相続人の相続財産に生活を依拠している部分がありますし、有形無形に被相続人の相続財産の形成にも寄与してきた部分もあり得るところですので、その相続への期待は保護すべきものといえます。

 

そこで、民法は、相続人に法定相続分の1/2(相続人が直系尊属(父母・祖父母)のみの場合は法定相続分の1/3)については、遺言の内容にかかわらず、最低限相続できる財産を「遺留分」として保障しているのです。ただし、兄弟姉妹には遺留分はありません。

例えば、相続人が配偶者と子2人のケースでは、配偶者の遺留分は4分の1(配偶者の法定相続分2分の1の2分の1)、子1人当たりの遺留分は8分の1(子1人の法定相続分4分の1の2分の1)です(民法1028条)。

 

そして、侵害された遺留分を確保するためには、遺言により財産を相続した人に、「遺留分減殺請求」をすることになり、遺留分減殺請求がされると、現行法上は、動産や不動産については減殺請求者の遺留分割合に応じて共有状態となり、遺留分の限度でこれをどのように分けるかを決めないといけなくなります。

そうすると、相続紛争を避けようとして遺言をしても、遺留分を侵害する内容の場合には、結局、相続紛争は避けられないことになるのです。

 

そして、遺贈された動産及び不動産については複雑な共有状態となって、事業承継や持分の処分が困難となり、紛争の長期化を招くことがよくあります。特に不動産は高額ですし、共有のままでは使い勝手が悪く、物理的な分割は困難ですが、他の相続財産として現金や預貯金が多くないと、結局、不動産を丸ごと処分しなければならなくなることもあります。

事業のために必要な不動産や、配偶者の住居を確保するために特定の不動産を遺言で特定の相続人に遺贈することもよくあるのですが、その不動産を処分しなければならなくなるのであれば、遺言者の意思も叶わないこととなります。

 

そこで、改正法は、遺留分を侵害された相続人は,被相続人から多額の遺贈又は贈与を受けた者に対して,遺留分相当額の金銭請求ができることにして、金銭による支払が原則と改めた(改正民法1046条1項)上、遺言で遺贈を受けた者の請求により、裁判所は遺留分相当額の金銭の支払に相当の猶予期限を設けることができることとしました(改正民法1047条5項)。

特に支払猶予の設定は、うまく運用できれば有効な手段にはなります。

 

しかし、結局は金銭で遺留分をあがなわなければ解決できないことが多いので、この改正だけで紛争がなくなるわけではありません。

これにより、遺言で遺贈された不動産等につき、遺留分減殺請求を受けたために共有にせざるを得なくなったり、又は金銭を用意できず不動産等を手放さざるを得なくなるような事態が一定程度防止されることが期待されるというにとどまります。

 

そうした意味では、相続紛争を避けようというつもりで遺言をするのなら、遺留分を侵害しないような穏当な内容にするに越したことはありませんね。