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弁護士ブロブ「改正債権法拾遺~施行までに整理しておくべきこと①-経過措置その6~定型約款」甲斐野正行

2019.12.19

引き続いて改正債権法の経過措置の例外的規定の重要なものとして、「定型約款」を見ていきます。

 

「定型約款」というのは、「ある者が定型取引(ある特定の者が不特定多数の者を相手方として行う取引で、その内容の全部又は一部が画一的であることが双方にとって合理的なもの)において、契約の内容とすることを目的として準備した条項の総体」をいいます(改正法548条の2第1項)。

 

現行法下でも、「約款」とか「規約」の名称で、保険、旅客運送、電気・ガスの供給、携帯電話などなどで、契約書とは別にとても細かい字で読む気が起こらないほど沢山の条項が書かれた書面が交付されることがあり、特に契約内容として意識していなくても、契約内容として扱われて、後で、エッと驚くことがありますよね。

 

保険に入っていたから、事故に遭ったときに、当然保険金が支払われると思っていたら、約款上保険金を支払われない場合に該当するとして、支払われないことはよくあり、阪神神戸大震災のときに、多くの建物が地震後に発生した火災のために被害を受けましたが、損保会社及び共済組合等は、地震免責約款の存在を理由に一部のケースを除き火災保険金・共済金を支払わないということがあり、社会問題化したことを記憶しておられる方も多いでしょう。

 

特定の者が不特定多数の者を相手に同類型の取引をする場合、画一的に処理することが効率的であることから、約款という形で、定型的な契約条項を定めることが事実上行われてきたのですが、現行法は約款について明文では規定しておらず、特に不特定多数側の当事者はその内容を認識していないことが多いため、上記のようにトラブルが生じることがよくあります。

 

そこで、改正法は、約款のうち一定範囲のものを定型約款として定義づけ、相手方がその内容を認識していなくても契約内容となるための要件などを明文で規律することにしたのです。
具体的には、主に以下のようなものです。

 

(1) みなし合意
相手方が、定型約款を契約の内容とする旨の合意をしたとき(「1号合意」)
または
定型約款準備者があらかじめその定型約款を契約の内容とする旨を相手方に表示 していたとき(「2号表示」)
は、契約の相手方が定型約款の個別の条項を認識していなくても、個別の条項に合意したものとみなされます(改正法548条の2第1項)。

(2) 不当条項の排除
(1)の要件を満たした場合でも、

相手方の権利を制限し、または相手方の義務を加重する条項であって、
かつ
その定型取引の態様およびその実情ならびに取引上の社会通念に照らして信義則に反して相手方の利益を一方的に害すると認められるもの
は、(1)の「みなし合意」の対象とせず、契約内容に組み入れられません(改正法548条の2第2項)。

(3) 定型約款表示義務
定型取引を行い、または行おうとする定型約款準備者は、相手方から請求があった場合には、遅滞なく、相当な方法で定型約款の内容を表示しなければなりません(改正法548条の3第1項)。

 

このように改正法の定型約款の定めは、明文では定めていない現行法よりも法律関係の明確化の点で進んだものですので、そのメリットを重視して、附則33条1項本文は、施行日前に締結された契約についても、改正法が適用されることにしました。
ただし、施行日前に既に効力が生じていた場合は、その効力まで否定されることはありません(附則33条1項但し書)。

 

もう一つ、改正法の適用を望まない当事者がいることもあり得るので、そこは尊重して、当事者の一方が施行日の前日までに書面又は電磁的記録によって反対の意思表示をした場合は旧法が適用されることにしています(附則33条2項、3項)。

 

次回も、もう少し経過規定を見ていきます。

                                           以 上