最近、最高裁でいわゆる同一労働同一賃金の原則に関わる判決が相次いで出されています。
いわゆる正社員と、それ以外のパートさんや契約社員など契約期間の定めがある有期社員の待遇差が論点です。
この点は、それぞれの会社の経営状況やそれまでの慣行もありますし、正社員と有期社員との間でも利害関係が必ずしも一致するとはいえませんので、使用者側からみても、被用者側からみても、なかなか難しいところがあります。
同じ会社で一緒に働いているのですから、その職務に応じた平等な待遇が望ましいとはいえるのでしょうが、何をどこまで平等にできるかはやはりケースバイケースといわざるを得ません。
会社側からみると、そのために正社員と有期社員とで、労働契約の内容や就業規則等会社内のルールを区別して定めているのだということになるのですが、民民関係の一般的な法律関係では当事者間の契約が優先しても、労働関係の法律では、労働法規が契約に優先する場合が結構あり、しかも、労働法規が必ずしも明確な定め方をしていないため、問題を難しくしています。
この関係では、旧労働契約法20条が、
「有期労働契約を締結している労働者の労働契約の内容である労働条件が、期間の定めがあることにより同一の使用者と期間の定めのない労働契約を締結している労働者の労働契約の内容である労働条件と相違する場合においては、当該労働条件の相違は、労働者の業務の内容及び当該業務に伴う責任の程度、当該職務の内容及び配置の変更の範囲その他の事情を考慮して、不合理と認められるものであってはならない」
と規定していたのですが、ご覧のとおり、条文の定めは一見して基準が明確とはいえません。
しかも、待遇と言っても、会社から社員に支給する賃金・手当の費目や有休等の制度利用はいろいろあって、何をどの程度平等扱いにしないと不合理となるのかはケースバイケースといわざるを得ません。
また、仮に不合理だとした場合、その違反に対する法律上の効果は何なのか、つまり、例えば、不平等な扱いを受けている有期社員の賃金が当然に正社員と同じレベルまで増額され、その差額を当然に請求できるということになるのか、という事後処理の問題についても法律が定めていません。
そこで、裁判所が、個別具体的な事件の判決でこうした穴を埋めていくことになり、これまで、賃金・手当の多様な個別的費目や有休等の制度利用についての待遇格差について各地で裁判が提起され係属しているのですが、裁判はご存知のとおり時間がかかりますし、最高裁まで行って解釈基準らしきものができるまでとなると尚更かかります。
現実世界では、そうこうしているうちに政治状況も変わって、働き方改革が云々されるようになり、働き方改革関連法によって、今年4月1日より、従前のパートタイム労働法が、旧労働契約法20条等の諸規定を移行・新設されたうえで、その名称が「短時間労働者及び有期雇用労働者の雇用管理の改善等に関する法律」(以下「有期労働者法」)と改められました。
そして、有期労働者法では、以下のように、8条から10条で、正社員とパート・有期社員との待遇差が不合理か否かについて、旧労働契約法20条よりもう少し詳細に個々の待遇毎に当該待遇の性質・目的に照らし、適切と認められる事情を考慮して判断されるべき旨を定め、10条で特に賃金についてその考慮要素を明確化しています。
とはいえ、依然、具体的な場面でどうなるかまでの基準が明確とはいえませんから、これも裁判所の個別事案での判決の積み重ねによることになります。
有期労働者法
(不合理な待遇の禁止)
第8条 事業主は、その雇用する短時間・有期雇用労働者の基本給、賞与その他の待遇のそれぞれについて、当該待遇に対応する通常の労働者の待遇との間において、当該短時間・有期雇用労働者及び通常の労働者の業務の内容及び当該業務に伴う責任の程度(以下「職務の内容」という。)、当該職務の内容及び配置の変更の範囲その他の事情のうち、当該待遇の性質及び当該待遇を行う目的に照らして適切と認められるものを考慮して、不合理と認められる相違を設けてはならない。
(通常の労働者と同視すべき短時間・有期雇用労働者に対する差別的取扱いの禁止)
第9条 事業主は、職務の内容が通常の労働者と同一の短時間・有期雇用労働者(第十一条第一項において「職務内容同一短時間・有期雇用労働者」という。)であって、当該事業所における慣行その他の事情からみて、当該事業主との雇用関係が終了するまでの全期間において、その職務の内容及び配置が当該通常の労働者の職務の内容及び配置の変更の範囲と同一の範囲で変更されることが見込まれるもの(次条及び同項において「通常の労働者と同視すべき短時間・有期雇用労働者」という。)については、短時間・有期雇用労働者であることを理由として、基本給、賞与その他の待遇のそれぞれについて、差別的取扱いをしてはならない。
(賃金)
第10条 事業主は、通常の労働者との均衡を考慮しつつ、その雇用する短時間・有期雇用労働者(通常の労働者と同視すべき短時間・有期雇用労働者を除く。次条第二項及び第十二条において同じ。)の職務の内容、職務の成果、意欲、能力又は経験その他の就業の実態に関する事項を勘案し、その賃金(通勤手当その他の厚生労働省令で定めるものを除く。)を決定するように努めるものとする。
上記改正に伴い、今年4月1日に旧労働契約法第20条が削除され、旧労働契約法第21条(船員に関する特例)が第20条に繰り上がりました。
ですから、現在の労働契約法には同一労働同一賃金の原則を定めた第20条は存在しないことになったのですが、中小企業については、来年3月31日までは旧労働契約法第20条が生きていて、旧パートタイム労働法もやはりそれまで生きており、ともに旧法が適用されますから、ややこしい話ですね。
そして、上記のとおり、最高裁でこの論点についての判決が続いていますので、次回以降これを整理していきたいと思います。
以 上