公職選挙法違反(買収・事前運動)事件で起訴され勾留中の河井克行衆議院議員の保釈請求が5回目でようやく認められ、今月3日夜に保釈されました。
東京地裁の保釈決定に対し、検察官は東京高裁に不服申立(抗告)をしましたが、東京高裁はこれを棄却し、河井議員は保釈保証金5000万円を納付して、逮捕以来約8ヶ月ぶりに解放されたわけです。
日本における「保釈」は、勾留されている被告人について住居限定や保証金の納付を条件として身柄を解放する制度です。
起訴されたからといっても、被告人にも生活があり、また、裁判で十分に防御活動をする必要がありますので、被告人の身柄は解放されるのが原則というべきですが、裁判に出頭しなかったり罪証隠滅をしたりするおそれがある場合には軽々に解放する訳にはいかないので、保証金を積ませたうえで、そんなことをしたらこれを没取(刑罰としての「没収」と区別されますが、音的に似ているので、我々は、「ボットリ」と呼んでいます)すると警告することで調整を図るわけです。
保証金は、不出頭や罪証隠滅への心理的抑制という趣旨ですから、その人にとって心理的抑制となるような額に設定されるのが通常です。同じ額でも、その資力によって没取されたときの痛みが違うわけで、裕福な人ほど高額に設定される傾向があります。
最近では、カルロス・ゴーンさんが15億円で保釈されましたが、そのような莫大な額の保証金を没取されるかもしれないのに、ゴーンさんは逃亡したわけですから、裕福な人には心理的効果は期待できない場合もあるということでしょう。
河井議員は5000万円で、妻の案里さんは1200万円でしたが、これはお二人の資力の違いが金額設定の背景となっているのでしょう。
もちろん、保証金をとられるという心理的抑制ではカバーできないほど不出頭や罪証隠滅のおそれが強いと判断される場合にはなかなか保釈は認められません。
河井議員がこれまでの4度のチャレンジで保釈を認めてもらえなかったのは、河井議員やその関係者の政治力等事実上の影響力や、この犯罪自体が組織的背景を持つことから、検察官側の証人として予定されていた地方議員らの尋問が済むまでは罪証隠滅のおそれが特に強いと判断されたということでしょう。そして、それらの人たちの尋問が終わると、それらの人たちへの河井議員やその関係者からの働きかけのおそれは低減しますし、残るは河井議員の被告人質問だけで、罪証隠滅のおそれはかなり少なくなったので、保証金による心理的抑制でカバーできるという判断になったのだと思われます。
河井案里さんの保釈も、検察官側の立証が終わった段階でなされましたから、同様でしょう。
日本の保釈率は、裁判員制度の導入もあり、被告人の防御活動を十分に保障しようという観点から、近時かなり上がってきており、平成15年に11.74%だったのが、平成30年には33.69%と約3倍になっています。昔のことを思うと、随分変わったように思いますが、いまだに人質司法との批判がある一方、保釈中の逃亡や再犯事件もあったりして、ここから更に保釈率が大きく上がるのかどうかはなんともいえないですね。
なお、「保釈」と「釈放」はよく間違われます。
「釈放」とは、もともとは身柄を拘束されている人の拘束を解いて自由にすること一般をいう、古くからある言葉で、現在では、刑事施設に収用されている受刑者・被疑者・被告人などの身柄の拘束を解くことをいうことが多いですね。「釈」は訓読みで「とく」であり、拘束していたものを解き放つという意味がありますので、まさに「ときはなつ」ということです。
ですから、いずれにしても「釈放」⊃「保釈」という関係であり、日本では起訴されていない被疑者や既に裁判を終えて服役している受刑者には「保釈」はないわけです。
もっとも、英米では起訴前の被疑者段階でも保証金を積んで身柄を解放する「保釈」制度があり、ハリウッドスターや有名歌手が、起訴どころか、まだ逮捕されただけの段階で保釈されたというニュースがよくありますので、そのあたりがこんがらがる原因かもしれません。
以 上